フィラリア予防の季節がはじまりました

| 白石かえ

蚊が媒介するフィラリア症(犬糸状虫症)。ほとんどの飼い主さんはちゃんと知っていて、毎年、予防薬を飲ませていると思います。でもあまりに普通になったため、逆に危機意識がなくなっていたら大変。改めてフィラリアのことを復習してみましょう。

いや〜な蚊の季節がやってきました。ということは、すなわちフィラリア予防薬の出番です。もう飲ませていますか? 忘れないできちんとフィラリア予防しましょう。

フィラリア虫が蚊と犬を利用して寄生する仕組み

ヤブ蚊が多そう。ただ蚊だけではフィラリアは子孫繁栄できない。宿主の犬が近くにいると感染はおきる

犬フィラリア症(犬糸状虫症)。

フィラリアの成虫が体内に寄生している犬の血を蚊が吸う(そのとき一緒にフィラリアの幼虫であるミクロフィラリアも吸う)
       ↓
蚊の体内でミクロフィラリアが成長して、感染能力のある幼虫に成長する
       ↓
その蚊が別の犬の血を吸う。そのときにフィラリアの幼虫を犬に注入する
       ↓
別の犬が新たにフィラリアに感染する。


フィラリアの感染ルートは上記のとおりである。まったくもって迷惑な話だ。だから蚊は嫌いだ(痒いし!)。でも痒いだけですむならよいが、フィラリアは犬を死に至らしめる内部寄生虫なのである。


蚊が中間宿主となって、ほうぼうに広めていく。蚊の体内ではフィラリアは成虫にはなれない。でも蚊がほかの犬の血を吸うときに幼虫の置き土産をしていき、犬の体内で幼虫はおとなになり、繁殖を繰り返して、虫が増える。ただ数年後には成虫は死ぬし、宿主の犬そのものが死んでしまえばそこでフィラリアも終わりだ。


しかしまた蚊が犬の血を吸って、ほかの犬に感染させる。フィラリアは蚊と犬をうまいこと利用して、子孫を残していく。まったく自然の仕組みとは上手につながっているというか、なんというか。まあ、蚊も生態系の一部であり、その役割をまっとうしているのだが、やっぱり憎たらしい。個人的な恨みもある。

というのも、以前『犬との暮らしって、とにかくハッピー』の回で書いた、私の初めての愛犬ラッキーは、フィラリアで死んだのだ。私が中学1年生のときだったから、えーと、たぶん1980年くらい(年がばれるっ)。その頃にはまだフィラリアを予防する手立てのない時代だった(ここ注目! 後述します)。


蚊から注入されたフィラリアの幼虫は、3か月間くらい皮膚の下や筋肉にいて成長し、そのあと静脈に入って心臓に向かう。そして心臓や肺動脈にすみついて、成虫になる。


成虫は、乳白色をしていて、素麺に似ている。メスの方が大きくて長さ30センチくらい、オスはメスより短めで20センチくらい。回虫より長くて、素人の私の目から見ると、けっこう存在感のある大きな寄生虫である。

1980年頃まではフィラリアは犬の死亡原因の筆頭だった

山歩きのときも、いつ蚊にくわれるかわからない

さて、フィラリアの症状には2タイプある。
①慢性型
②急性型


①慢性型は、肺動脈に成虫がとどまり続け、肺動脈硬化症や血管を蝕んで出血や炎症を起こさせる。柔らかい肺がだんだん硬くなり、酸素の交換がうまくできなくなって、乾いた咳をしたり、疲れやすくなり、階段の上がり下りなどの運動を嫌がるようになる。でも症状はゆっくり進むので、老化と勘違いされやすい。いずれ肝臓や腎臓にも影響がでて、肝臓の肥大、腹水(おなかに水がたまる)、浮腫(むくみ)を起こしたりして、弱っていき、いずれ死んでしまう。


②急性型は、成虫が増えすぎて肺動脈からあふれ、心臓内や、心臓近くの血管に入り込み、心臓の弁に引っかかったりするヤツもでてきて、急性心不全が起きる。そうなると、緊急手術で、開胸して、先端に小さな挟むものがついた器具を心臓近くの血管に差し込み、素麺のようなフィラリアを取り出していく。でもその頃には、すでに数年間フィラリアが棲みついていた状態のため、血管の壁はもろくなっているし、犬の全身状態も悪くなっているので、手術は難しく、術中に死亡してしまうこともある。


私のラッキーは、急性型になり、急いで手術となった(いま思えば、それまでにもきっと慢性型の症状がでていたはずなのに、小学生から中学生になった頃の私には、空咳や犬が歩くのを嫌がるなどを見過ごしていたのだと思う。申し訳ないことをした)。


仲良しの獣医さんだったから、手術を見学させてもらった。憎らしい素麺のような寄生虫が、全身麻酔されたラッキーの血のにじむ胸から無数にでてきたのをいまも鮮明に覚えている。


手術は一応成功したものの、ラッキーの体力はもう限界を超えていた。術後はずっとぐったりしていて、もう先が長くないことは子どもの私にもわかった。玄関の中に入れて、毛布をかけて毎日回復を祈っていたが、神様に願いは届かず、手術から1か月もしないうちにラッキーは死んでしまった。迷い犬を拾ったから、はっきりした年齢はわからないが、おそらく享年4〜5歳くらいだったろう。


本当に、フィラリアが憎かった。私の大事なラッキーは、素麺みたいな虫に殺された。「いつか獣医さんになって、フィラリアを撲滅させてやる」。中学1年生だった私は、ラッキーの亡骸にすがって泣き続けながら心に誓った。

ノーベル賞を受賞した大村先生がフィラリア薬を!

都会の散歩でも、これまた蚊はいつやってくるかわからないからやっぱり予防薬は必須

しかし時を同じくして、1979年。のちにノーベル医学・生理学賞を受賞した北里大学の大村智先生が、静岡県のゴルフ場に棲む微生物から「エバーメクチン」を発見した。


そしてこの「エバーメクチン」を元にしてアメリカの製薬会社・メルク社が、フィラリアを退治する「イベルメクチン」を作ってくれた。発売は、1983年。ああ、もう少し大村先生のこの発見が早かったら! 


ラッキーは4〜5歳の若さで死なないですんだのではないか。残念無念。でも大村先生が、ラッキーにすがりついて泣いていた私の代わりに、あのときの夢を叶えてくれたかと思うと、本当に感謝しかない(だいたい私は獣医さんにもなれなかったし、こんなフィラリアを撲滅をさせるような大役は自分にはできなかった。本当に大村先生、感謝しています。涙)。


イベルメクチンを正しく服用させれば、もうフィラリアで犬を死なせることはないのである。私にとっては、本当に夢のような大事件だった。当たり前だが、フィラリア予防薬ができてから、うちの犬がフィラリアで死ぬことはもうなくなった。ありがたいことである。


事実、1980年の頃までは犬の平均寿命は3〜4歳だった(短いっ!)。もちろんジステンバーなどのウィルス感染症や放し飼いによる交通事故などもあったろうが、個人的にはこの短命の原因はフィラリアのせいが大きいと思っている(子どもの頃からの積年の恨みのせいでよけいにそう思うのかもしれないが)。


蚊にミクロフィラリアをうつされても、すぐに死ぬわけでなく、数年かけて心臓や肺動脈に成虫がたまって体を蝕んでいくわけで、ちょうどそれくらいの年数で犬を殺す寄生虫だからだ。


それが「1989年の平均寿命は10歳前後、1998年には14歳に達し、その後10年間は13〜14歳で推移している」とある(資料1)。劇的に長くなっている。すごいことだと思う。


もちろん室内飼育の増加や獣医療の発達、ドッグフードなど栄養の向上、飼い主の知識のアップなど、ほかの要因もあると思うが、やはりフィラリアに打ち勝つ手段を手に入れたのは大きいはずだ。

せっかく薬ができたのだから、ちゃんと予防を

予防薬をしたうえで、玄関には蚊取り線香をするのが夏の日課。犬は迷惑そうですが

しかし、フィラリアで死亡例が減ったからと、だんだん危機意識がなくなっている話を聞く。平成生まれ(1989年以降)の人は、フィラリアで死んだ愛犬の体験もほとんどないだろう。


でも、フィラリアの幼虫を体に隠し持つ蚊は、まだ日本にたくさんいる。予防をせずに蚊のいるシーズンを3回越した犬は、ほぼ100%フィラリアに感染しているという統計があるというから驚きだ。


ついでに言うと、知人の獣医さんの話では、都内で昨年、フィラリア陽性の家庭犬が患者で見つかったという。このご時世にまだフィラリアの予防をしていない飼い主がいるなんて、本当に残念だ。


ちなみに、フィラリアの薬は厳密に言うと、たとえばインフルエンザのワクチンのように感染を“予防”するものではない。駆虫剤(虫下し)である。つまり、蚊を完全に排除できないので、ミクロフィラリアが体内に入ったと想定し、それを月に1回、駆虫するというものだ。


だから、シーズンのはじめにするものではない。都内のわが家では、だいたい蚊は毎年ゴールデンウィーク前後に現れる。


そうであれば、4月上旬にフィラリア薬を飲ませるのではなくて、まあ見かけた誤差も念頭に入れて、蚊が登場した約1か月後、大事をとって5月中旬から下旬に薬を与え、駆虫するのだ。そしてもうひとつ大事なことは「蚊を見かけなくなったからもう薬はいらないね」と思って薬を終了しないように。まだ犬の体内にはミクロフィラリアがいる可能性がある。


蚊をもう見なくなったと思ってからその1か月後に最後の駆虫をすることが重要だ。うちでは最終回はだいたい12月中旬かクリスマス頃にしている。

油断大敵。日本はどんどん温暖化しているのだから

蚊取り線香を選ぶときも、嗅覚のよい犬のために、ノンケミカルのものを愛用。また蚊よけのエッセンシャルオイルの入ったキャンドルもおすすめ 

飲ませるシーズンは、エリアによって異なる。日本は南北に長いので、時期はまったく違う。沖縄では年中、フィラリア予防薬を飲ませることが必要だという。


ちなみに蚊は、気温14℃以上で吸血活動を始めるらしい。近年では都会は温暖化しているから、たまに冬でもへろへろとした蚊らしきものが飛んでいるときがある。大丈夫だろうか。あいつは体内にミクロフィラリアを持っていて、まさかうちの犬の血を吸ってはいないだろうか。エアコンの室外機付近も暖かい風がでている。その近くに雨水の溜まるような些細な器のようなものがあったら、蚊が繁殖できるかもしれない。


そういう心配もあるので、やはり年に一度、投薬前にフィラリアが愛犬の体内にいないかどうかの検査をする必要はあると思う。もしフィラリアの成虫がいるところに駆虫剤を与えると、ミクロフィラリアと違い、成虫は大きいので、血管が詰まったりして急性型のようなショック状態を起こしかねない。投薬シーズンは何月から何月までがいいのかも、地元情報に詳しいホームドクターに尋ねるのがよい。

ときどき「うちは高層マンションだから、蚊はいない」という飼い主さんもいる。でもベランダから入らなくても、ご丁寧にエレベーターに一緒に同乗して上層階まで上がってくる蚊もいるそうだ。


蚊は意外なほど、吸血対象(動物)のいる場所を感知する能力に長けている。私は、数年前、代々木公園でデング熱が発生して、ご近所が騒然としていたときに、代々木公園沿いの道路を通る路線バスの中で蚊にくわれた。


なんてことだ。デング熱になったらどうしよう(結局、発症せず。でも近所の犬友達は発症してしまいました)。蚊は、こうして文明の利器を利用して、どんどん遠くへ移動しているのではないか、とちょっと敵ながらあっぱれと思ってしまった。

屋外飼育している犬の場合、「蚊取り線香をつけているから大丈夫」ということもない。つけないよりはいいと思うが、やはり蚊を100%寄せ付けないことは難しいと思う。


そもそも、高層マンションにすむ小型犬であっても、屋外飼育の犬であっても、毎日の散歩には行くことは動物の福祉的に欠かせないことである。散歩にでれば蚊にくわれる機会は必然的に増えるだろう。


私は、信号待ちのときや犬のウンチを拾うわずかな時間に、よく蚊にくわれる。ということは、犬もいつ蚊にくわれているかわからない。「うちの犬は大丈夫」と思わないでいただきたい。ラッキーをフィラリアで死なせてしまった私からの心からのお願いだ。

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白石かえ

犬学研究家・雑文家。家族は、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃん、夫1、娘1。前職は、自然環境保護NGO・WWFジャパンの広報室。ツキノワグマなど野生動物も好き。犬猫と暮らして30数年。家族(群れ)の悦び、信頼の笑顔、死別・闘病のいたみなど、生き物として大事なことはほとんど犬猫から教わった。彼らの存在は可愛いだけでなく、尊い。犬が犬らしく生き生きと暮らせるような、犬目線の原稿を書くのがライフワーク。

白石かえ

犬学研究家・雑文家。家族は、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃん、夫1、娘1。前職は、自然環境保護NGO・WWFジャパンの広報室。ツキノワグマなど野生動物も好き。犬猫と暮らして30数年。家族(群れ)の悦び、信頼の笑顔、死別・闘病のいたみなど、生き物として大事なことはほとんど犬猫から教わった。彼らの存在は可愛いだけでなく、尊い。犬が犬らしく生き生きと暮らせるような、犬目線の原稿を書くのがライフワーク。

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