動物福祉の国際概念「5つの自由」を知る

動物福祉 | 白石かえ

EUでは、科学的な行動規範で「動物福祉」がれっきとした学問として国際的に認められています。日本でも動物福祉先進国に近づくように「5つの自由」を知っておきましょう!

「アニマル・ウェルフェア」という言葉を、最近よく耳にするようになりました。「動物福祉」と訳されることが多いのですが、厳密にいうと意味はもっと広義であり、深い。これから注目のキーワードです。

アニマル・ウェルフェアって?

アニマル・ウェルフェアは、コンパニオン・アニマル、産業動物(牛・豚・鶏などの家畜)、実験動物、野生動物などすべての動物種に適用される。神石高原ティアガルテン(広島県神石郡神石高原町)でのびのびと放牧されているガンジー牛という珍しい種類。その名もガンちゃん

「アニマル・ウェルフェア」は近年日本に入ってきたばかりで、私もまだ混乱している言葉。日本の新聞などでは「動物福祉」と訳されることが多い。英語のWelfareは「福祉」と訳されるから、Animal welfareはそのまま訳すと「動物福祉」となる。でもWikipediaで「動物福祉」を検索すると「動物福祉という語感から、感情的な”愛護”や、介護・医療など含む社会保障を連想する”福祉”と誤解される場合もあるため、日本国内では和訳せずにアニマル・ウェルフェアと表記されることもある」とある。


そもそも福祉という言葉は「すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供するという理念を指す」とWikipediaにあり、たしかに人間を対象にしているイメージがある。だから「動物福祉」とは訳さず、アニマル・ウェルフェアという言葉をそのまま広めていこうという動きがあるのだ(「すべての動物に最低限の幸福と社会的援助を提供するという理念」だと思えば、なんとなく納得)。

動物愛護と動物福祉の違い

ほぼ毎週末のように青山、恵比寿、横浜や「ジャパンキャンピングカーショー」などのイベントで、保護犬猫の譲渡会「Adoption PARK」を開き、かつ動物保護団体の紹介などを行って「保護犬猫との出会い」の場を提供している一般社団法人Do One Good

EUやアメリカと異なり、日本には「動物愛護」という概念がある。むしろ「動物福祉」よりもいまの日本には定着している。「動物愛護」と「動物福祉」。この似て非なる言葉をまず整理しよう。以前、私が全力で取材して書いた記事から抜粋したい(※1)。


動物愛護とは「愛して護る」と書く。でも「愛」って主観的なもの。「愛したい」「可愛い」「可哀想」と感じるかどうかは、個人の感情によって左右される。


それに対し、動物福祉(アニマル・ウェルフェア)は、科学的な行動規範であり、学問として国際的に認められている。つまり愛護と違って、個人の感情や価値観に左右されない。それぞれの動物種によって異なる自然な行動や欲求が満たされるよう、快適性を追求する。つまり人間目線ではなく、動物目線で考えるところがポイントである。

ちなみに日本の「動物の愛護及び管理に関する法律」では、「すべての人が<動物は命あるもの>であることを認識し、みだりに動物を虐待することのないようにするのみでなく、人間と動物が共に生きていける社会を目指し、動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱うよう定めている」を基本原則としている。


1973年(昭和48年)に制定されたときは「動物の保護及び管理に関する法律」として議員立法で制定されたが、1999年(平成11年)に「動物の愛護及び管理に関する法律」にわざわざ名称が変更されている。動物保護→動物愛護へ。これも時代の流れだったのだろうが、国際標準からはずれた、極めて日本的な「慈しみ」「尊ぶ」精神が反映されているように個人的に感じる。もちろん動物を可愛いと思い、慈しみ、命を尊ぶ精神は、人としてとても大事な心であることに異論はないのだが、前述したように「愛護」活動は個人の感情的なものが基準となる。

できるかぎり「苦痛」を与えない飼養環境を整える

一方、EU法ガイドラインでは、動物福祉とは科学的な規範に則した「肉体的・精神的に十分健康で、幸福であり、環境にも調和していること」と明記され、「動物の福祉はそれぞれの動物の一生の基本的ニーズ(生理的・環境的・心理的・社会的)を満たすこと」と述べている。

動物園で飼育されている野生動物にもアニマル・ウェルフェアは適用。金沢動物園(神奈川県横浜市金沢区)のオカピも、緑の木々に囲まれた環境で飼育されていた

これらは犬や猫といったコンパニオン・アニマルに限らず、産業動物(牛・豚・鶏などの家畜)、実験動物、野生動物などすべての動物種に適用される。すなわち、この先ハムになる豚だとしても、実験動物として殺されることになるマウスだとしても、生きている間は、できうるかぎり「苦痛」を与えないような飼養環境を整える必要がある。そしてなるべく「苦痛」の少ない方法で死を与える。


ここでの「苦痛」とは広範な感情の不安な状態であり、痛み、不快、傷害、疾病、失調、極度の疲労、恐怖、社会的仲間の喪失のほか、人間が気がついていない状態のものも含まれる(だから知識だけでなく、想像力も必要だ)。従来では、肉体的な痛みしか取り上げられてこなかったが、現在では精神的な苦痛も重要視されている。

5つの自由とは

夏場、直射日光にあたる場所につながれっぱなしでは不快だし、辛いし、のども渇くだろう。熱中症で死の危険も感じて恐怖に思うかもしれない。それに比べ、真夏、水遊びをさせてもらえたら! 犬は悦び、自由な行動をとる自由を満喫できる

こうした基本的ニーズを満たし、苦痛を与えないための指標として、「5つの自由」(ファイブ・フリーダム)がアニマル・ウェルフェアの国際概念として認められている。もともとは1960年代のイギリスで、家畜の劣悪な飼育管理を改善させ、家畜の福祉を確保させるために定められたものだ。現在では、家畜だけでなく、コンパニオン・アニマル、実験動物、動物園の動物、サーカスの動物など、あらゆる人間の飼育下にある動物福祉の基本として、世界中で認められていて、EUではこれに基づいて指令が作成されてる。


(1)飢えと渇きからの自由
(2)不快からの自由
(3)痛み、負傷、病気からの自由
(4)恐怖や抑圧からの自由
(5)自由な行動をとる自由(正常な行動を表現する自由)

日本人の理解が低い、目に見えない精神的な苦痛

思う存分においを嗅ぐという行動も、犬にとってはなくてはならない自然な欲求のひとつ

では、ここで犬に限定して考えてみよう。(1)の飢えと渇きについてだが、適正で栄養的に十分な食餌を与えられ、いつでも自由に新鮮な水が飲める重要性は、誰でも理解できるはず(それでも飼育放棄されている犬の茶碗には汚い泥水が入っていて、いつ代えてもらったかわからないような飼い方をしている場合がある。これはつまり虐待にあたる)。


(3)痛み、負傷、病気についても、いまの日本の多くの愛犬家は、血が出ていたり、犬が苦しそうにしていたら、きちんと動物病院に連れていってくれるはずだ(フィラリア症の予防もせずに放置してフィラリアに感染させ腹水が溜まって呼吸が苦しそうなのに診察を受けさせないのは虐待にあたる)。でもともあれ、この2つは、良識のある飼い主さんならたいていちゃんと対応していると思う。生命の維持に欠かせないものだからだ。

しかし問題なのは、残りの3つである。悪気はないのだが、動物の生態、習性の勉強不足や環境の観察不足、はたまた動物の気持ちを想像する力の欠如などから、理解されていないことが多いのである。


たしかにごはんを与え、病気を治してもらえたら、犬は生きていくことはできる。生命は維持でき、肉体の苦痛は取り除かれる。でも、精神的な苦痛はどうだろう。目に見えない、精神的な苦痛が、この残りの3つに関係している。動物は生きてさえいればいい、というものではない。命さえつないでいればいいというものではない。生活の質、QOLの向上、生きる楽しみがないと、幸福にはなれないのだ。人間とそれは変わりはない。

生きていればいいというものではない

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白石かえ

犬学研究家・雑文家。家族は、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃん、夫1、娘1。前職は、自然環境保護NGO・WWFジャパンの広報室。ツキノワグマなど野生動物も好き。犬猫と暮らして30数年。家族(群れ)の悦び、信頼の笑顔、死別・闘病のいたみなど、生き物として大事なことはほとんど犬猫から教わった。彼らの存在は可愛いだけでなく、尊い。犬が犬らしく生き生きと暮らせるような、犬目線の原稿を書くのがライフワーク。

白石かえ

犬学研究家・雑文家。家族は、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターのクーパー、ボクサーのメル、黒猫のまめちゃん、夫1、娘1。前職は、自然環境保護NGO・WWFジャパンの広報室。ツキノワグマなど野生動物も好き。犬猫と暮らして30数年。家族(群れ)の悦び、信頼の笑顔、死別・闘病のいたみなど、生き物として大事なことはほとんど犬猫から教わった。彼らの存在は可愛いだけでなく、尊い。犬が犬らしく生き生きと暮らせるような、犬目線の原稿を書くのがライフワーク。

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