人間とこんなに違う!知っておきたい「犬の記憶のメカニズム」

| 増田 宏司

「うちの子、何度叱っても粗相をしてしまう」「丁寧に教えているのに、しつけが上手くいかない!」etc.、こんなとき、つい「うちの愛犬、記憶力が悪いのかな?」と思ってしまいがちですが、実はそうではありません!犬と人間とでは、記憶のメカニズムが違うのです。この違いを理解した上で愛犬と向き合えば、愛犬との意思の疎通がよりスムーズになるかも。まずは、犬の記憶のメカニズムについて解説しましょう。

■犬の記憶は断片的。物事を関連付けて記憶するのが苦手です

犬の記憶のメカニズムの特徴は、断片的であること。つまり、犬はある出来事と他の出来事を関連付けて「ストーリー」として記憶することが苦手なのです。たとえば、お留守番中に愛犬がソファでおしっこをしてしまったとします。帰宅した飼い主さんはソファについたおしっこのシミを見て、愛犬が留守中に粗相をしたことを察知し、愛犬を叱りますよね。つまり、人間は「愛犬がソファでおしっこをした」という出来事と「ソファにシミがついた」という出来事を一連のストーリーとして記憶することができるのです。

しかし犬にとって「ソファでおしっこをした」ということと「ソファにシミがついた」「飼い主が怒っている」という出来事は全く別々のこと。「ソファでおしっこをしてシミがつき、帰宅した飼い主がそれをみつけて怒っている」というストーリー仕立てで物事を記憶し、理解することはできないのです。
しかも、飼い主が帰宅してソファのシミに気づき愛犬を叱っているとき、愛犬はまた別のことをしています。例えばおもちゃで遊んでいる愛犬に向かって「こら!ダメじゃないの。なんでソファでおしっこをしたの!?」と叱っても、愛犬にはなぜ自分が叱られているのか理解できません。むしろ「おもちゃで遊んでいるから叱られたのかな?」と誤解してしまうかもしれません。

■犬の記憶は「感情」とセット。しつけには「嬉しい記憶」を与えることが効果的

では、どうすれば愛犬に効率的に物事を教えたりしつけたりすることができるのでしょうか?
その答えは、犬の記憶メカニズムのもう1つの特徴を上手に活用することです。先ほど、犬の記憶は断片的であることを説明しましたが、犬の記憶にはもう1つ「出来事とその時の感情を結び付けて覚える」という特徴があるのです。

例えば、ボール遊びをしているときに、愛犬がボールを上手にキャッチして飼い主のところに持ってきたとします。当然、「よくできたね!」と褒めてあげますよね。そうすると、愛犬は「ボールを持っていった」という出来事は「飼い主さんに褒められて嬉しかった!」という感情とセットになって記憶するので、次回、ボール遊びをすると、また飼い主の方にボールを運んでくるようになります。これを応用することが、しつけには非常に効果的なのです。たとえば「待て」を教えるときも、「待て」ができたタイミングですかさず褒めてあげると、愛犬は「待てができた」という出来事を「褒められて嬉しい」という感情とセットで記憶しますから、次もスムーズにできるようになります。記憶がより鮮明になるように、ほめるときは大げさにほめてあげること。ご褒美に少量のお菓子を与えるのも効果的です。

ここで注意したいのは、犬にとって嫌なマイナスの感情ではなく嬉しいプラスの感情を記憶に刻んであげること。たとえば、ソファで粗相をしないようにしつけたいときは、ソファで粗相したときに叱るのではなく、トイレでちゃんと用を足せたときに褒めてあげるようにしてください。専門用語では「正の強化」というのですが、動物には好ましい出来事や刺激が動機となって自発的な行動を起こす特性があるからです。
 愛犬に嬉しい記憶、楽しい記憶をたくさん与えてあげることが、結局は効率的なしつけ、ひいては快適な毎日に繋がるなんて、素敵なことですよね。皆さんも、ぜひ今日から試してみてください。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

増田 宏司

獣医学博士・獣医師、東京農業大学農学部バイオセラピー学科教授(学科長)伴侶動物学研究室所属。
2004年東京大学大学院 農学生命科学研究科 獣医学博士課程修了。東京農業大学准教授等を経て2015年から現職。専門は動物行動学、行動治療学。「犬語ブック」(日本文芸社)、「東日本大震災からの真の農業復興への挑戦」(ぎょうせい)など著書多数。犬と飼い主さんの幸せのために、日々東奔西走中!

アクセスランキング

人気のある記事ランキング

子猫特集